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札幌高等裁判所 昭和55年(う)242号 判決 1981年3月31日

被告人 吉田敏彦

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年及び罰金四〇万円に処する。

原審における未決勾留日数中二〇日を右の懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してあるビニール袋入り結晶性粉末覚せい剤二〇袋(札幌高等裁判所昭和五五年押第七四号の1ないし20)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、検察官秋田清夫作成・同田中豊提出の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は弁護人海老名利一提出の陳述書と題する書面に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は要するに、被告人を懲役二年に処した原判決の量刑は、罰金刑を併科せず、かつ、懲役刑の刑期を二年にとどめた点において軽過ぎて不当である、というのである。

所論にかんがみ、原審記録及び証拠を精査し当審における事実取調べの結果を合わせて諸般の情状を検討すると被告人は、七、八年前に暴力団である的屋全日本源清田連合会・長江四代目塚本俊明の実子分となり、妻久子とともに露店商をして生計をたててきたが、昭和五〇年一一月一日賭博罪で、昭和五三年七月五日暴行罪でいずれも罰金刑に処せられ、更に昭和五四年七月一七日暴行及び傷害の各罪で懲役八月、執行猶予三年に処せられ、現に執行猶予中の身となつたのであるから、謹慎自重して更生に励むべきであつたのに、昭和五五年二月に妻久子が肺癌のため入院し相当多額の入院費等の支出が続いたことから、同年四月中旬ころ、苦しい生活状況を相談しに行つた稼業上の兄貴分である佐藤実から覚せい剤の密売を勧められ、手取り早く高額の現金収入を得るために、以後同人から多量の覚せい剤を仕入れてこれを密売し、そのころから定職につくことなく、いわゆるトルコ嬢の朽山百合枝と同棲し、日中はゲーム場で覚せい剤の買受人を捜すことを兼ねて遊興し、密売利益のうち相当の額は右の同棲費や遊興費につぎ込み、その傍ら数年来断つていた覚せい剤の自己使用にも再び手を出してこれを反復累行するようになり、そのような行状の一環として、同年五月二五日ころ、右佐藤から覚せい剤約五〇グラムを一グラム当り一万円で仕入れたうえ、小分けして売捌くため共犯者の少年甲野一郎に右覚せい剤を全部預けて保管させ、その一部を同人と互いに協力して予定どおり末端の使用者らに密売した残りの三五・三二グラムを、原判示第一のとおり、同人と共謀して営利の目的で所持していたほか、原判示第二のとおり覚せい剤を自己使用したものであつて、覚せい剤の心身及び社会に及ぼす害悪などをも勘案すると、犯情は極めて良くなく、被告人の刑事責任はまことに重大である。他面、被告人が覚せい剤の密売に手を染めた契機が、右のとおり妻の入院費等の捻出にあつたこと、原判示第一の覚せい剤が捜査機関に押収され、いずれ没収されて財産的不利益を蒙る状況にあること、妻久子が同年八月三一日に死亡したこと、被告人に同種事犯の前科はないこと、一応本件各犯行を反省悔悟し、刑をつとめ終えた後は郷里の浜頓別に帰り真面目に働く旨誓つていること、右執行猶予が取消されることなど、被告人のため酌むべき事情を十分考慮すると、所論指摘の同種事犯に対する量刑(いずれも原判決後のもの)を勘案しても、被告人を懲役二年の実刑に処した原判決の量刑は首肯しえないわけでなく、加えて、後記罰金刑の併科をも勘案すると、懲役二年の刑期が不当に軽過ぎるとして破棄するまでには至らない。

そこで、罰金刑を併科すべきか否かの情状の有無について審究するに、覚せい剤取締法四一条の二第二項後段が覚せい剤の営利事犯につき情状により罰金刑を併科することができると規定する趣旨は、犯人が現実に金銭的利得を得ているか否かにかかわらず、たとえ一銭の利得を得ていないときにおいても、財産刑を併科することによつて当該犯罪が経済的に引き合わないことを強く感銘させるにあると解するのが相当であるところ、本件の場合、前判示のほか、被告人は本件で逮捕されるわずか二月余りの間に約一六〇グラムの覚せい剤を密売し、一〇〇万円程度の利益をあげていたこともうかがわれ、更には処分未了の原判示第一の覚せい剤三五・三二七グラムについても、押収されることがなければ被告人の思惑どおりの利益を得て売却された可能性が極めて高いことなどを勘案すると被告人の営利目的、利得欲は極めて強固であり、その実現性の高いことなど原判示の犯行に関する諸事情を斟酌すると、犯情まことに悪質であつて、被告人は相当額の罰金刑の併科は免れないというべきであり、この点で原判決の説示する量刑理由は到底首肯しえない。

そこでその罰金額について更に検討すると、営利の目的をもつてする覚せい剤所持罪の罰金額を定めるに当つては、まず、当該犯罪行為に含まれる営利性の程度、すなわち営利の目的をもつて手中に収めた覚せい剤の量、その入手価額、売買等による処分予定価額、その処分の実現可能性、処分利益ないし予想利益、これら利益の帰属関係等に、覚せい剤取締法四一条の六により没収すべき覚せい剤の量などを勘案し、これに、当該犯罪行為に対して科すべき懲役刑の刑期、被告人の資産状況、被告人に対する財産的刑罰による感銘度等を斟酌してその額を量定すべきところ、本件の場合、原審証拠によれば、被告人が昭和五五年五月二五日ころ営利の目的をもつて入手した覚せい剤約五〇グラムについては、その入手価格は一グラム当り一万円であり、これを売却しようとした価格は一グラム当り二万円ないし三万円(もつとも大口の客に対しては約五グラム当り六万円ないし八万円)で、計算上五〇万円ないし一〇〇万円の利益が見込まれ、右五〇グラムの覚せい剤のうち、原判示第一の覚せい剤を除くその余の大部分は現に右売却価格で他に売却処分されて利益をあげていること、原判示第一の三五・三二グラムについては本件で押収され没収されるものとして約三五万円ないし約七〇万円の利益は結局現実化されず、かつ、この分について被告人は没収により財産的不利益を受けることになるが、しかし、これも前判示のように右の売却価格で容易に社会に拡散させて所期の利益を収めることができるものであつたこと、被告人が手中に収めた利益の中から、一部生前の妻の入院諸費用等に支払われたこともうかがわれ、また、若干のものが共犯者甲野のホテル代、生活費に充てられていたことが認められるから、これらの諸事情を勘案し、更に本件で被告人には懲役二年の刑が科されること、被告人には格別の資産がないこと、その他被告人の年齢、経歴等、ことに被告人が前判示のように暴力団の構成員であつて寡額の罰金刑ではその感銘度が薄いと思われることなどを斟酌するときは、被告人に併科すべき罰金刑の額は金四〇万円とするのが相当である。

してみれば、被告人に対し単に懲役二年の刑に処するにとどめ、右罰金刑を併科しなかつた原判決の量刑は、この点において軽すぎて不当であるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

そこで、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書を適用して、当裁判所において更に次のとおり自判する。

原判決が確定した事実に法律を適用すると、被告人の原判示の各所為は同判示の各法条に該当するところ、原判示第一の罪については前記の情状を考慮して覚せい剤取締法四一条の二第二項後段に従い懲役刑と罰金刑とを併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により、重い原判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金四〇万円に処し、同法二一条を適用して原審における未勾留日数中二〇日を右の懲役刑に算入し、右の罰金を完納することができないときは同法一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収してあるビニール袋入り結晶性粉末覚せい剤二〇袋(札幌高等裁判所昭和五五年押第七四号の1ないし20)は、原判示第一の罪に係る覚せい剤で、犯人である被告人が所有するものであるから、覚せい剤取締法四一条の六によりこれを没収することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 金子仙太郎 藤原昇治 田中宏)

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